自己溶解型マイクロパイル・アレイ・チップSelf-dissolving micropile array chip

株式会社バイオセレンタック 元京都薬科大学薬物動態学教授(2014年定年退職)

高田寛治先生

当社はDDS(ドラッグデリバリーシステム)技術をもとにして新規の経口製剤、経皮吸収製剤、注射剤の共同開発を行います。

株式会社バイオセレンタック代表取締役であり、元京都薬科大学薬物動態学分野教授の高田氏が過去33年間にわたる薬物動態、製剤技術、DDSに関する研究成果として取得した特許「マイクロパイル」について話を聞きました。

【松本】

現在、この特許をライセンスしている「溶解性マイクロニードルシート:N I S S H A」(https://www.nissha.com/products/allproducts/dds.html)」の商品を見ておりますと、
表面はザラザラしておりますが、これが一つ一つの精確な小さい針からできているとは顕微鏡で見ない限り一見してはわかりませんでした。


【高田】

これは、生体内溶解性ポリマーを基剤としてその中に有効成分を混合し、微細なニードル形状の穴を多数有するメス型に流し込んで成形したものです。

これをパッチ状あるいはシート状に加工することにより肌に直接、貼り付けることができます。

溶解性マイクロニードルは、生体内溶解性ポリマーの濃厚液、あるいはそれを基剤として有効成分を混合した濃厚液を数十から数百μmの長さの微細なニードル状に成形したものです。

皮膚に貼り付けるようにパッチ状に加工することで、経皮的に薬物を投与して吸収させることが可能となりました。全く新しい剤型です。

パッチを皮膚に貼付すると、ニードルは皮膚の最表面に位置する角質層のバリヤー機能を突破し、
皮膚の表皮層で溶解するため、単に皮膚に塗布する従来の投与法と比べてはるかに効率的に有効成分を体内へ吸収させることが可能となりました。

また、ニードルの先端径(太さ)は皮内注射針の外径と比べ1/10以下の太さであるため、皮膚への貼付時に痛みはほとんど感じない侵襲性の低い投与法です。


【松本】

貼るだけで、有効成分を体内へ投与できるとは、幅広い用途に使える可能性を秘めた発明ですね。
どのようなことから発想されたのでしょうか?

きっかけは、飲み薬(経口薬剤)では満足のいく効果が得られなかったので、もっと吸収率を向上させたいとの思いから新しい可能性に挑戦しました。

【高田】

吸収促進剤とは私の師匠の世代が世界に先駆けて考え出された概念です。
日本発の概念で、抗生物質の坐剤で実用化に成功しました。

しかし、経口投与での治療に用いる錠剤やカプセル剤の場合には吸収促進剤を配合いても薬物の吸収率は低く、実用化するためにはさらなる改良が求められていたのです。

なぜなら、薬物と吸収促進剤とを混ぜて調製した錠剤やカプセル剤を経口摂取すると、胃の中で壊れて溶けた後、小腸へ移行しますと、小腸内において薬物と吸収促進剤が分離してしまいます。そのため、吸収促進剤の効果が発揮されず、薬物の高い吸収率が得られないからです。

そこで、薬物と吸収促進剤を分離させることなく閉鎖空間内に絶えず共存させた製剤(消化管粘膜付着製剤GI-MAPSと呼びます)を発明しました。

ペプチド薬や蛋白薬の場合、経口投与しますと吸収率が低いのと消化管内で蛋白分解酵素により加水分解を受けるため薬理効果が得られません。典型例が糖尿病治療薬のインスリンです。インスリンを経口投与しても血糖降下作用が得られませんので、インスリンを必要とする糖尿病患者は毎日頻繁にインスリンの自己注射を行っておられます。

その後、製薬会社からGI-MAPSをペプチド薬のDDSに用いて経口投与製剤を開発できないだろうかとの打診を受けました。このペプチド薬をラットに経口投与したところ、0.1~0.05%程度の吸収率しか得られませんでした。そこで、GI-MAPSの技術を用いてラットで吸収実験を行いましたところ、吸収率は約5%まで向上したのです。しかし、製薬会社からは、吸収率が最低でも20%ないと商品化できないとのコメントをもらいました。

20%の吸収率を達成するためには、加水分解酵素の影響を回避しかつ吸収率を上げるための強力な吸収促進剤が必要となりました。しかし、新規の吸収促進剤を導入しようとすると、副作用等の安全性に関するデータを新たに取り直さねばならず、当時において製品化は困難だという結論に至ったのです。

マイクロニードルパッチ(目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤)の誕生

そこで、経口製剤から経皮吸収製剤へと考えをシフトさせました。

理由は皮膚には消化酵素が存在しないからです。しかし、何らかの吸収促進の手段を考え出さねばなりませんでした。

すでに経皮吸収促進剤としてエタノールやプロピレングリコール、メントールなどの化合物が実用化されていましたが、皮膚には角質層と呼ばれる強力なバリヤーがあるため、これらの古典的な吸収促進剤では高い薬物の吸収率は得られません。

そこで、マイクロニードル(微小針)によって、皮膚の表面に位置する角質層のバリヤー機能を物理的に突破して薬物を皮膚の表皮層内へ入れる方法に着目したのです。

マイクロニードルとは、皮膚に刺しても痛みを感じない程にまで微細化された針であり、皮膚から薬物を吸収させるためのDDSです。

特徴と従来技術との違い

従来のマイクロニードルは薬液を皮膚の表皮層に注入するための医療用具でしたので、穴の開いた微小針です。

一方、私が発明したマイクロニードルは穴の開いていない微小針ですので
「マイクロパイル」と呼ぶ方が正確です。


なぜならパイルとは杭という意味の英単語だからです。1円玉とほぼ同じ形状の多孔性基盤(パッチあるいはチップと呼びます)の上に約300本のマイクロパイルを構築するように設計しました。

さらに1本1本のパイルをコンドロイチン硫酸やデキストランといった水溶性のポリマーを基剤に用いて作り、薬物はこれらの基剤ポリマーに練りこむようにしました。

金属製のマイクロパイルの表面に薬物をコーティングした製剤が欧米の研究者により考案されていましたが、コーティングでは十分な量の薬物をパイルに保持させることができませんでした。


パイルの内部にまで薬物を保持させることで問題の解決をはかりました。


パッチを皮膚に押圧するとパイルが皮膚に刺さり、刺さった状態で基剤ポリマーが自己溶解することによって基剤中に含まれて保持された薬物が皮膚内に拡散し、その後、皮膚の真皮層に広がる毛細血管を経て体内に吸収されるというDDSですので、経皮吸収が難しい薬物を容易に経皮吸収させることができます。

マルトースを基剤とする自己溶解型のマイクロパイルも存在していましたが、
マルトースを100℃に加熱して融解しないことにはマイクロパイルに成形できません。

薬物をマイクロパイルの調製過程で高温に曝すと、分解・変性などが起こりますので、
医薬品製剤としての実用化は不可能でした。


その問題を解決したのが私の「マイクロパイルパッチ」なのです。


水溶性の洩糸性ポリマーであるコンドロイチン硫酸やデキストランを基剤に用いました。
少量の精製水で基剤ポリマーを溶解することによりいったん粘性の高い糊(ヒドロゲル)とします。

薬物を添加して混和した後にメス型に充填し、乾燥した後にメス型から取り出すことにより溶解性マイクロパイルを調製します。

したがって、室温以下の低温条件下で溶解性マイクロパイルを製造できますので、
経皮吸収が難しいペプチド薬や蛋白薬などを高い効率で経皮吸収させることが可能になったのです。

今後の可能性

マイクロパイルの今後の可能性について、医薬品認可という高い壁がありますが
技術的にはワクチン接種についても利用できるように研究を進めております。
(新型のマイクロパイル経皮ワクチンシステムを2017年に発表)

溶解性マイクロパイル・ワクチンは、抗原を皮膚表皮層に分布する免疫系のLangerhans細胞へ直接デリバリーするため、
筋肉内注射ワクチンと比べ、1/10の抗原量の投与で済むという画期的なDDSになっています。


また固形化した製剤ですので、ワクチン注射薬(液剤)と比べて長期の安定性がすぐれています。


COVID-19ワクチンでは超低温下での輸送、保存に高額の費用がかかりますが、
溶解性マイクロパイル製剤とすると輸送・保存条件の緩和が図れます。


このように私どもが目指すDDSとは、体内での薬物動態を制御することで、薬物の効果を最大限に高め、
副作用を最小限に抑えることを目的としており
様々な可能性を秘めた製剤技術になっております。

発明者高田寛治先生

株式会社バイオセレンタック  元京都薬科大学薬物動態学教授(2014年定年退職) http://www.bioserentach.co.jp

元京都薬科大学薬物動態学教授(2014年定年退職)

発明ラボックスEyes

この発明によって新規の経口製剤、経皮吸収製剤を開発できる薬物を具現化できます。

吸収促進剤を配合した糖尿病薬セマグルチド(GLP-1リセプター作動薬、ノボノルディスク社)の経口錠剤が2020年に市場に出ました。
経口投与後の吸収率は僅か1%ですので、GI-MAPSを用いてより優れた経口製剤としたり、マイクロパイルで経皮吸収製剤として
同種同効薬の開発を促すことも可能です。

また、今後、インスリン、G-CSF、EPOなどの遺伝子組換えペプチド・蛋白薬を始めとして、
ヘパリンや遺伝子DNAそのものといった高分子薬、中分子薬、低分子化抗体など従来の技術では良好な吸収率の望めなかった
薬物の創薬、創剤などに可能性があります。

経皮吸収製剤においては「貼る注射」と言うとわかりやすいでしょうか。

これから世界中で向かうであろう「非接触型の医療」という観点からも必要とされる発明ではないかと感じております。

また現在、世界的にも注射針などの医療廃棄物が大変問題となっております。
このマイクロパイル技術発展によって、医療廃棄物も減らせるのではないかと考えてしまいますね。

しかし高田先生のお話を伺って、医薬品認可されるには現在とても高い壁があると感じましたので、
例えば、動物などの医療には使えないだろうか? 

毎年ウィルスの危険に晒される豚、牛、鳥などの畜産業、動物園、競走馬業界、ペットのワクチン、
養殖業など思いも寄らない分野でもこの発明が広がったらいいな、
と私たちも新しい用途も期待しております。

この特許について詳しくお聞きしたい方はお尋ねください。